国枝昌樹氏講演会報告(講演会を終えて)

講演会を終えて 

新聞やテレビは、毎日のようにシリアの内戦について報道しています。それらの報道内容と、現地から直接入ってくる情報とがあまりにも違っているため、シリアに関心を持つ方達から「実際はどのようになっているのだろうか?」という声が寄せられ、今回の講演会の運びとなりました。
何が真相かを断定することはできませんが、私達はメディアによる情報操作の大きな戦略の中に巻き込まれてしまっている、ということだけは確かだと思われます。

私達は、シリア市民が一日も早く平穏な日々を取り戻すことができることを願っています。

親切で、繊細な心と細やかな気配りをもつシリアの人達。家族の愛情に満たされ、気高い誇りを持って生活している多くのシリアの人達。平穏な日々と家族の安全を願うのは、私達日本人もシリア人も、同じです。
「現地シリア人からの声」にもあるように、諸外国の押しつけようとしている欧米流「民主主義」も、過激な宗教者の押しつけようとしている「原理主義」も、地に足をつけて生活している多くのシリア市民にあっては、迷惑な話なのではないでしょうか。シリアの主人公はシリア市民だと思います。

チュニジアに端を発したアラブの一連の革命から2年が経ちました。チュニジアでは市民による独裁者追放が実現し、市民自身の手に依る民主化の実現が期待されていました。
しかし2年経った今、選挙の結果は戦略に長けたムスリム同胞団による支配となり、自由を求め戦ってきた人々はその成果を奪われ、宗教戒律による抑圧とイスラム原理主義者集団による暗殺に怯える日々となっています。
エジプトでも自由を求め、体を張って戦った人々の成果は、ムスリム同胞団の手に渡ってしまいました。これが国際世論の期待していた結果と言えるのでしょうか?

今、アラブの春と謳われた一連の革命の結果を見るとき、独裁者を追放すれば市民は自由になる、市民自身の手に委ねさへすれば民主主義国家を実現できる、と考えるのは早計だったと思われます。
では、シリアが自由と民主主義を実現するにはどうしたらよいでしょうか。

シリアでは多くの反政府グループがそれぞれ異なる主張のもとに武装闘争を展開しており、反政府グループへは、湾岸諸国・欧米諸国から、また国外のムスリム宗教組織から豊富な資金と武器の供給、さらには多くの外人戦闘要員の補給が、政権を倒すことを目指して行われています。当初市民革命とされていた内乱ですが、市民の支持のない外部勢力とシリア政府との戦いとなっているように思われます。

政権が倒れれば、豊富な武器を持ったこれら小集団の覇権争いによる激しい武力衝突、粛清の仕合、市民への暴行・略奪が長い期間にわたって続き、シリアの国土は荒廃してしまうのではないでしょうか。現政権を倒すことで混乱が終結に向かうとは到底考えられません。
そのような混乱状態を招いた場合、今政権を倒すことを支援している人達は、シリア市民に対しどのように責任を感じるのでしょうか?
現体制に多くの問題があっても、現政権がガバナンスを維持しながら改革・改善を実行して行くこと、国際社会はそれを支援していくことが、紛争を終息させていく合理的な解決策と言えるのではないでしょうか。

シリア人にとって日本は、尊敬と信頼の国であり、大きな期待を寄せています。参加者のアンケートにもあるように、日本政府は欧米との協調のしがらみを乗り越えて、紛争を解決する独自な外交を展開し、シリア市民がアラブ独自の「民主化」を達成するよう支援して欲しいと思います。

今回の講演会が、私たち日本人がシリアのために今何ができるかを、みなで真剣に考える一つの切っ掛けになればと願っております。

シリアに平和が早くもどりますように。
実行委員会


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